11/05/2012

放射線と科学への向き合い方

アメリカに来て3ヶ月経ったが、時々地震や原発について聞かれることがある。「東京に旅行に行きたかったが親に止められた」とか「俺は気にしないけど妻が気にしている」とか。日本にいたときも震災後一時帰国した留学生もいた。改めて、原発というのは人に恐怖を与えるものだと感じた。そして、それはどうやら国籍に依らないらしい。

なぜ人は原発(あるいは放射性物質)に対して恐怖感を持つのか。この問に関しては古賀洋吉さんが見事に説明していると思う。

原発というお化け
http://yokichi.com/2012/01/post-326.html

放射性物質は目に見えない程小さい。核反応の仕組みも実感がわかない。放射性物質を恐れるのは目に見えないお化けに恐怖心を持つのと同じだという意見には「なるほど」と思った。

ただ、最後の方の言葉が気になった。
もし、原子力とか放射能というものが肌感覚で理解できるようになれば、ある程度怖くなくなると思う。核反応が、氷が水になるみたいに見てなんとなくわかるとか、放射能が色や匂いでわかるとか。原子力発電が「お化け」じゃなくなったら、きっと原子力発電の時代になるかもしれない。でも、無理だとしたら、きっと人類は長期的には原発の何だかよくわからない怖さに耐えられないと思う。
世の中の科学的な現象は全てが目に見えるわけではない。例えば燃焼という化学反応は目に見えるがレントゲン撮影をしてもX線が目に見えるわけではないし痛みを感じるわけでもない。MRI(核磁気共鳴画像法)で体内を検査したとしても磁場を体が感じることはない。



おそらく今後は目に見えないような物理現象(電波、磁場、赤外線、紫外線等)を利用した製品・技術は増えていくはずだ。そして大抵の製品に関しては疑問も持たずに使っていくのだと思う。例えばパソコンがなぜ高速処理ができるのか、どのように電子が動いてトランジスタが作動しているのか気にしながらパソコンを使うことはほぼないはずだ。別に細かい物理現象を知らなくても、パソコンが使えれば生活に支障はない。

目に見えないような物理現象を目に見えるようにする、肌感覚で分かるようにするのは難しい。本当にその現象を理解するには体感するのではなく学問として勉強するしかない。しかし、眼に見えないものに関して本能的に理解することはできないので、頭だけで理解するというのは本当に難しいことだと思う。

例えば中学校では燃焼という現象を学ぶ。これは酸化(物質が酸素と結びつく現象)の一種だが、酸化が急激に行われると燃焼になり、酸化がゆっくりと行われると金属が錆びたりする。これを化学方程式で表すと(マグネシウムMgの場合)

2Mg + O2 -> 2MgO

となる。この方程式を見ただけでは実感がわかないが、実際にマグネシウムに火をつけて激しく燃焼するところを見ることで「これが燃焼なのか」と化学方程式と実際の現象を結びつけることができる。中学、高校で数多くの科学実験を行うことで、理論と実際の現象が結びついていくことを少しずつ理解していくことができると思う。

現象が目に見える場合は分かりやすいが、高校、大学と進むにつれて実験で学ぶ現象は大抵目に見えなくなってくる。目に見えないほど小さい物理現象や生活とは何の関わりもない化学反応を扱うことが多い。そういった実験を行う際は高度で複雑な理論、薬品、反応、装置を利用し、それぞれの理論や反応や装置についても深く知っておく必要がある。ここまで来ると装置や薬品は身近なものではないし、それらを本能的に理解することはできなくなる。過去の研究者達が作り上げた理論を信じ、装置の性能を信じるしかない。信じるといっても大抵の理論は数十年前に出来上がり、研究者の中でも誰も疑う人は居ないので、少なくとも授業の実験レベルであれば理論が間違っていることはないと思う。

ただし、卒業研究、大学院の研究レベルになってくると理論が確実という保証は怪しくなってくる。最先端の研究になると本当にその研究結果が正しいのかどうかで論争になることもある。ひとつの現象を説明するのに幾つかの仮説があり、そのうちどれが有力かはっきりしていない場合もある。このレベルになると科学的な現象を本能的に理解するということはほとんど無くなるのではないかと思う(研究テーマにも依るが)。そういった時にはその理論がどのくらい有力か判別する必要があるだろうし、自分の実験データがどのくらい有力か伝えることも必要になる。研究の場合は客観的なデータと論理でしか語れない。

核分裂・放射線の問題は大学あるいは大学院レベルの理解の仕方が必要になってくる。原子物理は高校ではほとんど学ばないし、放射線や放射性物質も特定の分野の人でしか扱うことはない。核分裂、臨界などの現象は既に科学的に解明されているが、放射線が生体にどのような影響をもたらすかは(データはあるが)はっきりとわかっていないこともある。

磁場、赤外線などを本能的に理解できないのと同じように、目に見えない放射性物質を本能的に理解することはできないと思う。しかし科学的な知識を蓄えることはできる。放射性物質が人体にどういった影響をもたらすか学ぶことはできる。それをせずにただ怖がっているだけではいけない。何も見えない完全な暗闇よりも薄暗い暗闇の方が恐怖心は少ないはずだ。できるだけ多くの人に科学的な理解をして欲しいと思う。例えば田崎教授の本(pdfファイル)は参考になると思う。

やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/

これを読めば核分裂とは何なのか、外部被曝・内部被曝の影響はどのくらいなのか、事故の後のデータ等を知ることができる。内容はできるだけ客観的に事実を伝えるように心がけてあるように感じる。

ただ、この本に書かれてあることを鵜呑みにするのは良くないと思う。この人は信頼できるからこの人のいう事ならなんでも信じるとか、この機関のデータは信頼性が高いから間違いなく正しいだろうという考えだとどこかで理解を誤る恐れがある。特定の分野に関しては権威の人だとしても、その人の専門外の分野に対する意見が必ず正しいとは限らない。また、権威だとしても間違えることはあるだろうし最新のデータについて知らないことがあるかもしれない。色々な人の意見を聞き、色々な文献を参考にし、自分が納得の行く答えを出すことが原子力だけでなく研究活動や科学以外のことでも不可欠だと思う。

話が長くなったのでまとめると

・放射性物質は本能でなく科学的に理解するもので、科学的な現象を学ぶ必要がある。
・田崎教授の資料にはできるだけ多くの人が目を通して欲しい。
・研究でも普段の生活でも特定の人・ものだけを信用するのは良くない。

ということでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿